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奈良高明 准教授 | 工学系研究科 計数工学科

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Profile
工学系研究科 マテリアル工学専攻 工学博士
高校生のとき、毛利衛さんが行った宇宙での材料実験に興味を持ち、材料科学の世界へ。2002年東京大学大学院博士課程修了後、スタンフォード大学で半導体や機能性酸化物などの結晶成長に関する研究に従事。ʼ07年に宇宙科学研究所から東京大学への異動を機に、グラフェンの電子輸送特性の研究を開始。グラフェンの電子デバイス応用を目指し日々奮闘中。

シリコンの数千倍の電子移動速度をもつグラフェンに挑む

グラフェンのもとになる元素鉱物グラファイト。

グラフェンのもとになる元素鉱物グラファイト。

「鉛筆の芯にも使われているグラファイトは炭素からなる元素鉱物で層に分かれているのが特徴です。グラファイトを原子1層にはがしたものはグラフェンと呼ばれ、シリコンに代わって次世代の電子デバイスの材料になると期待されています」

グラフェンが発見されたのは2004年。その歴史は浅いが、その特性から〝驚異の材料〟として注目されている。「グラファイトの中で電子が動く速さはそれほどでもありませんが、薄いシート状のグラフェンにした瞬間、速度がシリコンの何千倍にもなるのです。今、シリコンを使った半導体は原理的に限界が近づいているといわれていますが、グラフェンならブレイクスルーできると思っています」

長汐晃輔准教授が取り組んでいるのは、そのグラフェンを使った、画期的な電子デバイスをつくる研究だ。「実際にデバイスをつくってみると、理論上の電子移動速度と同じ結果は出ません。何が問題なのかを考察して、再びデバイスをつくり、データをとる。研究は地道な作業の繰り返しです。ナノメーターというサイズのものを扱うのは大変なことですが、そのワンステップが大切です。世界中でこの研究がホットに進んでいて、小さな進歩がありながら、理論上の値に近づいている状況です」

今は基礎研究段階だが、長汐准教授には、その先にあるビジョンがはっきりと見えている。

「みなさんが使っているスマートフォンは重いですよね。それはパソコンの機能を凝縮しているだけなので、搭載しないといけないものが多いからです。今はクラウドのようなサーバからデータをダウンロードして使っていますが、ワードやエクセルといったソフト自体はスマートフォンの中に入っています。でも将来的にソフト自体も毎回クラウドからダウンロードして使えるようになれば、スマートフォンのような重くて大きいデバイスは不要になり、手元にあるのは情報の表示端末だけでよくなります。今、なぜそれができないかというと通信速度が遅いからです。通信速度が速いグラフェンデバイスが実用化されれば、こんな話が夢物語ではなくなるでしょう」

グラフェンを使ったまったく新しいデバイスの必要性......。長汐准教授は、先の東日本大震災を機にその思いを一層強くしたという。

「震災時に重要だったものは情報でした。どこの道路が使える、どこに避難者がいるという投稿や書き込みなどを多くの人が活用していました。しかし、そんな状況下で、もし端末がなければ情報を見ることも、情報を投稿することもできません。あらためて情報端末の重要性を感じました。同時に、今後はさらに情報端末が災害などの非常時に個人と社会をつなぐ存在になると認識しました。だからこそ、情報端末をもっと使いやすくしたい。難しい部分はクラウドに任せて、手元の表示端末は誰でも使えるようなシンプルなものにする。機器をグレードアップさせるだけではなく、どうやって社会とつながっていくか。このことも僕たちが考えなくてはいけないことです」

グラフェンのさらなる可能性に思いを馳せて

グラフェンデバイス測定中。長汐准教授は学生とともに自ら手を動かし研究に励む。

グラフェンデバイス測定中。長汐准教授は学生とともに自ら手を動かし研究に励む。

「グラフェンで通信速度を上げた情報端末の先にあるのは、オールカーボンの情報端末です。グラフェンは原子1層なので透明度が高く、熱伝導もいいので端末が熱くなりません。軽くて、薄くて、透明のデバイス。いつも腕に巻いておけるような薄いプラスチックのような情報端末かもしれませんし、窓の中に入れておいて誰もがいつでも使えるようなものになるかもしれません。グラフェンをはじめとするカーボン材料の魅力は、ひとつの素材がいろいろなことに使えるということ。使い方次第で可能性が広がっていくので、考えれば考えるほど楽しいです」

世界のさまざまな大学や研究機関が、グラフェンを使った研究にしのぎを削っているが、長汐准教授の研究室ではどんな学生を求めているのか?

「将来的なビジョンは明確でも目の前の研究は小さな一歩の積み重ねです。うまくいかないことも多いかもしれませんが、できないときの言い訳を考えるのではなく、自分なりのやり方を考えて目標に向かっていってほしい。そして何より研究自体を楽しめる学生と一緒に研究を進めていきたいですね。研究室の中だけにいるのはよくないので、学生には国内外の学会に参加してもらいます。外に出ると、自分と同じように苦労している人がたくさんいると認識します。同じ目標を持った仲間もできますし、新たなモチベーションもできるでしょう。特にグラフェンは世界と戦わないといけない分野なので外に目を向けることが大切なのです」

世界を見据え、グラフェンの研究に情熱を傾けている長汐准教授。その胸中には、マテリアルが新しい時代を切り拓いていくという自負がある。

「これからのデバイスはマテリアルの時代だと思っています。いろいろなマテリアルがある中で何を使って新しいデバイスをつくるのか。それが僕たちに求められているセンスなのです」

〝グラフェンデバイスの研究・開発

グラファイトからグラフェンを取り出す

グラファイトに粘着テープを貼ってはがすという作業を繰り返してグラフェンに分離する。半導体の世界では考えられなかった原始的作製法はマンチェスター大学の研究者が発見。2010年ノーベル物理学賞を受賞した。

奇跡の材料といわれるグラフェンの可能性

光学顕微鏡で見たグラフェンの単層。グラフェンは原子1層なので薄く透明度が高い。電子の動く速度が高く、熱伝導もよいことから、次世代の電子デバイスを糸口として将来的に幅広い応用が考えられている。

グラフェンをきれいに大きく成長させる

グラフェンを使ったデバイスの産業応用への第一歩は、きれいで大きなグラフェンのシートをつくること。カーボンの原料であるメタンを金属触媒上で分解してやることでグラフェンが成長していく。

一定速度で動くデバイスをつくる

成長させたグラフェンの上に絶縁膜をのせた FET(電界効果)デバイス。グラフェンは原子1層なので繊細で取り扱いが難しい。理論上の値に近い安定した速度を出すデバイスを目標に作製、測定、分析の繰り返しが続く。

研究室学生インタビュー

幅広く半導体に関わり社会に役立つ画期的なものをつくりたい!

鳥海・長汐研究室 金山 薫さん Kaoru Kanayama 東京大学大学院 工学系研究科 マテリアル工学専攻 修士課程2年

「マテリアル工学科を選んだのは、自分の手を動かして実験したり、ものをつくることが面白そうだったから」という金山さん。研究室紹介のとき、テープではがしてグラフェンを取り出す方法が斬新で、グラフェンを使った半導体の研究に興味を持ったという。

鳥海・長汐研究室に入ったきっかけは?

グラフェン自体にひかれたこともありますが、長汐先生の評判のよさが決め手で研究室を選びました。学生の間で優しく面倒見がいいと人気でした。その噂は本当で、想像以上の面倒見のよさでした。グラフェンの実験結果が 出たとき、タイムラグなく相談に乗ってくれて「次はこうしてみよう」とアドバイスをくれます。長汐先生自身が学生と一緒に研究しようというスタンスなんですね。先生が忙しくて実験できないときは、「金山くんがうらやましいな」と言われるぐらいです(笑)。

研究のやりがいを感じる瞬間は?

長汐先生のアドバイスもあり、最近、世界最高峰の絶縁膜を張ったグラフェンのデバイスをつくることができました。なかなか参加できない海外の学会に提出できるレベルのデータが取れたのです。絶縁膜の質をよくするためにはプラズマを使うのが一般的ですが、高圧酸化に注目したところ、いい結果が出ました。グラフェンを使ったデバイスをつくるのに1週間かかりますが、測定で理想のデータが取れないと、再びデバイスをつくり直さなければいけません。うまくいかなかったときは落ち込んで丸一日何もせず寝ています。そこから復活してもう一回始めるということの繰り返しです。今の楽しみは測定でさらにいい結果を出すこと。理想通りの結果が出たときはビールがおいしいです(笑)。

今後の夢を教えてください

今後は半導体系の企業に入って研究職に就きたいです。研究室で学んだことを活かしながら、社会の役に立つものをつくれたらと思っています。もちろん、グラフェンのデバイスが実用化されればうれしいですし、グラフェンをはじめとして幅広く半導体に関わりたいです。最終的には世界を驚かせるような画期的なものをつくりたいです。

グラフェンは繊細なので
デバイスづくりは神経戦

成長させたグラフェンの上に絶縁膜をのせてデバイスが完成。「グラフェンを使ったデバイス製作には1週間ほどかかります。失敗するとゼロからやり直しなので丁寧に慎重に!」

測定結果にドキドキ!
泊まり込みの作業も

デバイスが理論通りの速度で動いているのか測定して分析。温度を変えて何パターンも試すので1日がかりの作業。条件を変えず正確に測定できるよう泊まりがけで測定することも。

測定はすべてひとりで。
自分なりのルールが必要

測定は個人作業。誰ももっていないデータを取ろうとするため決まったルールはない。だからこそ、今、何をしているか理解しながら自分なりのルールに沿って進めることが大切。

目指すは海外の
学会での研究発表!

2013年、福岡のホテルで開かれた国際学会SSDM(国際固体素子・材料コンファレンス)に参加。’14年3月は米国デンバーで開催される学会に参加予定。初の海外での学会なので楽しみです!

全員集合の忘年会。
思いっきりハジけます!

「昨年の鳥海・長汐研究室の忘年会の様子です。忘年会や歓送迎会は研究室のみんなで、大学近くの行きつけの居酒屋へ。研究の息抜きもできて楽しいですよ」

研究室はいい雰囲気。
女子もウェルカム!

研究室のメンバーは約20名の大所帯。「学生同士の雑談に長汐先生も途中参加して一緒におしゃべりすることもあります」。研究でも長汐先生の面倒見のよさは想像以上!!

計数工学科

社会の幅広い分野と接点があるマテリアル工学科。さまざまなマテリアルの分野を3つのコースに分けて学ぶ。人々の命と健康を守る人工臓器や再生医療など、医療工学への展開について学ぶバイオマテリアル。鉄鋼材料を筆頭に、金属、セラミックス、有機材料やその環境負荷などを学ぶ環境・基盤マテリアル。高度情報化社会を支える、ナノスケールで 機能制御された半導体デバイスなどについて学ぶナノ・機能マテリアル。いずれのコースもハイレベルの研究が行われている。