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野崎京子 教授 | 工学系研究科 科学生命工学科

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Profile
工学系研究科 化学生命工学専攻 工学博士
1991年京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了。同大学院工学研究科材料化学専攻助教授を経て、2002年東京大学大学院工学系研究科化学生命専攻助教授。ʼ03年に同教授。「自由な発想と手法で新しいものをつくろう。自分の研究成果で教科書を書き換えよう」を掲げて研究・教育を行う。

分子触媒を使い有機化学反応を自在に制御する

分子触媒を使いCO2とエポキシドでプラスチックが生まれた。

分子触媒を使いCO2とエポキシドでプラスチックが生まれた。

工学部で「ものづくり」というと飛行機だったり、ロボットだったりのイメージが強いが、野崎京子教授とその研究室は分子をつくる。ターゲットは「触媒」だ。

「自動車の排気ガス処理などに使われる固体触媒に対して、私たちが扱っているのは分子触媒です。金属+酸素+金属+酸素と並べる固体触媒は反応を制御するのが難しいのですが、金属分子に酸素や炭素、リンなどの有機分子がつながる分子触媒は構造が明確なので反応を論理的に制御できる。私たちは、この新しい有機反応を示す触媒をつくることを研究の中心としています」

反応を制御しやすいという分子触媒の利点を活かして開発されるのが、医薬品や農薬の合成中間体だ。薬品は完成に至るまでに数段階に分けて分子を変換していくが、その間に鍵となる合成中間体が存在する。分子触媒を使えば、狙いの部分だけを化学変換させて中間体を効率よくつくり出すことができるのだ。

分子触媒の活躍の場は、合成中間体などの「小さい分子」だけではない。大きな構造を持つプラスチックなど、分子量にこだわらず、出口となる製品が多様なのも分子触媒の強みだ。野崎研の名前を一躍有名にしたCO2を実用化可能なプラスチックに変える技術も、分子触媒によって熱に弱いとされてきたそれまでの課題を克服することで達成された。

「同じプラスチックでは、新しいポリエチレンの研究も行なっています。ポリエチレンはCとHだけでできていますから本来はツルツルなんですが、そこにアルコールとか酸素とかが入ると接着性がよくなる。そうなれば表面にそのまま印刷できたりとか、貼り合わせるときに接着剤がなくても直接くっつくようになる。ポリエチレンはコストが安くて、油や水にも耐える優れた材料で、お菓子の袋やマヨネーズのボトルとかにも使われているんですが、酸素を通すので、バリアをする他のフィルムと貼り合わせるために間に接着層が必要でした。でも、新しい性質を持つポリエチレンができるようになるとその接着層が不要になる。これまでより安価なものが、大量にできる可能性があります」

社会のニーズを知り時代を変える研究を

「言われたことではなく、自分が本気でやれるものを見つけてほしい」と野崎教授は言う。

「言われたことではなく、自分が本気でやれるものを見つけてほしい」と野崎教授は言う。

野崎研究室はただ分子触媒をつくるだけではない。独自の反応を示す触媒が見つかって、有効な材料になる可能性があるのなら、実際にデバイスをつくって可能性を調べてみる。

「できた分子触媒がプラスチックとして使えるんだったら、そのプラスチックがどういう性質を持っているのか、どういう製品が可能かを自分たちで調べて、企業との共同開発を進めていって、できるだけ連続性のある研究をしたいと思っています」

研究のための研究ではなく、常に社会とのかかわりを見据えて進めていく。企業との共同研究が多いのも、その方針ゆえだ。

「そうでないと、本当に必要な要求がわからなくなる可能性があります。アカデミックの中だけで閉じてしまうととんでもない勘違いをしてしまうことも多い。私たちがやっているのは基礎研究ですが、工学部における基礎研究というのは出口の人が考えていることを知ったうえでの基礎研究だということです。もちろん、自分のやりたいことを進めていっていいのですが、社会のニーズを知ったうえで、自由に研究するというのが工学部のスタイルではないでしょうか」

もちろん、工学部はあくまでサイエンスをやるところ。学生が企業の下請け、賃金のかからない使いやすい労働力になるような形は絶対に避けなければならない。サイエンティフィックマインドは維持しながらも、しかし、「閉じたサイエンス」ではいけないと野崎教授は常々、学生に伝えている。

「社会的なニーズという面で、常に考えておかなければならないのは、エネルギーの枯渇問題です。その解決を目指して、我々もこれまでできなかったことをできるようにして、今できることをさらに効率よくしていかなければなりません。企業にとってコスト削減は第一ですが、省エネルギーの立場からも無駄なものは出さないというのが重要。持続可能な社会にダイレクトにつながるので、今ある触媒の効率をいかに上げていくかというのは、我々の使命だと思います」

高効率化に加えて、持続可能な社会に向けての触媒研究のもうひとつの課題は、新しい原料への対応だ。

「戦前は石炭を原料とする化学反応だったし、重工業が発展した戦後からは石油が原料。それが今、どんどん天然ガスにシフトしてきていると感じています。特にシェールガスというキーワードが出てからはそう。新しい原料をいかに化学産業に活かしていくか、それが我々の研究分野が向かっていく方向だと思っています」

野崎研のホームページには「自分の研究成果で教科書を書き換えよう」という言葉が記されている。時代の大変換期にあたる今こそ、その気概が求められている。

〝分子触媒で有機合成反応を制御する

CO2を有効利用するプラスチック

CO2を主な原料としてプラスチックをつくる技術は以前からあったが、熱に弱く触媒の反応効率も悪いため、実用化は難しいと言われてきた。新しい触媒の開発によって反応効率が上がり、製品化への道筋が開けた。

有機分子で反応を制御する分子触媒

青が金属、赤が酸素、オレンジはリン、黒は炭素。触媒作用が起こる場所は金属が接する場所だが、それを制御するのは有機分子たちだ。有機分子のデザインを変えることで意図する反応を引き出すことができる。

小分子をつなげて新反応の素材を生む

分子触媒は、小分子から高分子まで、幅広い有機化合物の合成反応に用いることができる。高分子の応用例はプラスチック、繊維など。たくさんの小分子が触媒によって結合し、大きな分子となる。

分子触媒の制御で薬をつくり分ける

小分子の代表は合成中間体。図はアルデヒドの合成中間体。イブプロフェンなど数多くの最終生成物(薬品)に共通の中間体で、分子触媒に工夫を加えることで、さまざまな薬に対応する形に制御することができる。

研究室学生インタビュー

社会に役立っているその意識を持ちながら研究できるのが楽しい

野崎研究室 高橋京佑さん Keisuke Takahashi 東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻 修士課程2年、野崎研究室 高橋講平さん Kouhei Takahashi 東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻 博士課程3年

高橋講平さんと高橋京佑さんは野崎研では先輩・後輩の間柄。
まずは、化学生命工学を志望したきっかけから聞いてみました。

この分野を選んだ理由は?最初から化学をやると決めていたのでしょうか

高橋(講)僕は最初から化学をやりたいと思っていました。有機化学が面白いなと思ったのは大学2年生くらいですね。東大で化学ができるところはたくさんありますが、化学生命工学科は化学と生命科学の両方があるのが特徴で、入ってから両方の勉強を1年半したあとで、自分の行きたい研究室を決められる。そのシステムがいいなと思ったんです。

高橋(京)僕は大学に入る時点では、生物、生命に関わりたいと思っていたんですけど、大学に入ってからだんだん化学が面白くなっていって、進振りの時点では両方ができるこの学科を選びました。この学科に入ってから授業を聞いているうちに有機化学がどんどん面白くなっていって、完全にシフトした形になりました。

現在の研究のどこに魅力を感じていますか?

高橋(講)何かの役に立つことを発見して、それがなぜ起こっているかを発見していくのが面白いですね。役に立つから解明します、というのがやっぱりやりがいがあるし、工学部的な研究だと思います。この研究室はみんなが解決すべき問題というのを意識して取り組んでいます。

高橋(京)研究をやっていて、これがうまくいったら実用化されるんだ、という感触を持ちながらやれるのが面白いです。大学だけでやっていると世の中でどういうことが役に立つかという視点が欠けがちなんですが、共同研究で企業の方とミーティングしていると、「向こう側の視点」が学べるのもいいですね。

野崎教授はどんな先生ですか?

高橋(京)研究者でありながら教育者です。叱られるときも成長を促すようなアドバイスをしていただけます。

高橋(講)「あの子、どうしたらいいと思う?」と聞かれることもあります。よくみんなのことを見ているなと思います。フランクで、いい先生です。

新加入のメンバーと
毎年恒例の記念撮影

野崎研の集合写真です。毎年、新年度の初めに新しく加入したメンバーと共に撮影します。カメラ好きの伊藤助教のご指導の下(?)、写真撮影は行われます。

国際学会の発表で
海外の先生と議論

自分の研究と関連の深い研究をされているPiet van Leeuwen教授です。ぜひ一度お会いしたいと思っていたのですが、博士3年にして、遂に夢がかないました。

研究室旅行での
スポーツ大会も恒例

高橋京佑君(左)がシュートを決めようとしているところです。研究室旅行は年に1回行われます。スポーツしてお酒を飲んで観光する、化学抜きのイベントです。

野崎先生の誕生日会に
先輩からの指令が?

パーティーは毎年、4年生が企画して、特別なケーキとプレゼントが贈られます。先輩から「何かひと工夫を」といつも言われているので、年々ハードルが上がっています。

高圧ガスの反応実験。
CO2から化合物ができる

耐圧反応器の中に独自開発した触媒と、さらに溶媒を入れ、そこに高圧ガスを導入し、加熱することで反応させます。ガスから役に立つ化合物を合成することができます。

ディスカッションも盛ん。
英語も自然に上達します

以前野崎研で博士研究員をしていたCarine Robartさんと。ディスカッションが盛んなのも野崎研の特徴。英語を話したい、という意識があれば留学しなくてもある程度上達します。

科学生命工学科

化学生命工学は、有機化学と生命工学を融合して誕生した学問領域だ。“分子”を共通のキーワードとして化学からバイオテクノロジーまでの幅広い研究と教育を行っている。 化学生命工学科は、医療・創薬分野にとどまらず、環境・エネルギー関連分野など、持続可能な人類社会に貢献する工学分野として多くの成果をあげている。