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菊地隆司 准教授 | 工学系研究科 科学システム工学科

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Profile
工学系研究科 化学システム工学専攻 博士(工学)
1997年、東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻博士課程を修了。その後、スイス連邦工科大学チューリッヒ校にてプロセス工学の研究に携わり、九州大学、京都大学ではエネルギー変換材料、触媒化学を研究。2008年から東京大学准教授に就任。同大学のバスケットボール部の部長も務める。

触媒によって化学反応を自在にあやつる

さまざまな物質で電極性能を試す。

さまざまな物質で電極性能を試す。

「電池」とは、物質を化学的に反応させることによって電気を起こす装置のこと。一次電池、二次電池、燃料電池など、そのシステムや用途の違いによってさまざまな種類がある。乾電池のように使い捨てのものを一次電池、ノートパソコンや携帯電話のバッテリーのように充電できるものを二次電池という。燃料電池は外部から反応物質を供給することで連続的に電気を起こすことができる「発電」装置でもある。菊地隆司准教授の研究室では、多様な燃料から高い効率で電気を起こすことのできる次世代燃料電池を開発している。「例えば、エネファームという家庭用燃料電池があります。これは、都市ガスのメタン(CH4)を水素(H2)と一酸化炭素(CO)に変化させることで発電し、そのときに生じた熱でお湯をつくります。化学反応としては複雑なものではなく、学校の実験室でも再現できるものです。ただし、その反応がつねに効率よく作用する装置をつくろうとすると、それだけでは解決できない問題があるんです」

その問題は、一酸化炭素。化学反応が起こる場所にくっついて化学反応を妨げる、つまり電池の反応を大きく低下させる原因になるという。

「解決策はいくつか考えられます。ひとつは、空気を吹き込んで一酸化炭素を燃やすという方法。ただし、燃やしたときに発生した熱は外に逃がすだけですから、エネルギー効率が下がるし、装置も複雑になります。そこで私たちは、触媒作用を使って一酸化炭素をメタンに戻すシステムを考えました。メタンに戻れば、燃料としてまた使うことができます。この方法を用いることによって、エネファームのエネルギー効率を高めながら、よりシンプルな構造にすることができて、より多くのエネファームを世の中に送り出すことができるようになります」

5000時間が限界だといわれていた燃料電池の耐久時間が、現在では1万時間を達成したという例も報告されている。それをさらに4万時間(約6年)程度まで延ばそうと、さまざまな触媒開発が行われているところだ。「このように私たち工学者は、化学の原理を知る『化学屋』としての知識を持つと同時に、装置をうまく働かせる『機械屋』の技術にも通じていなければなりません。頭で考えたことを、手を動かして実証する、地道な努力が欠かせないのです」

「化ける」を「楽しむ」「化楽」の精神が大切

実社会に直接役立つ研究をしているというやりがいを日々実感する。

実社会に直接役立つ研究をしているというやりがいを日々実感する。

2015年には、燃料電池自動車が普及を開始する見込みもあり、より注目が集まっているが、さらに期待されるのが再生可能エネルギーの活用。

「太陽光、風力、地熱といった再生可能エネルギーは、発電時に二酸化炭素(CO2)をほとんど排出しない、地球環境に負荷を与えないクリーンなエネルギーですが、総発電電力量に占める割合は1%前後と、ごくわずかです。その理由は、自然状況などによる変動が激しいこと、エネルギー変換効率が低いことなどが挙げられます。ただし、燃料電池の技術が高まり、『電気を溜める』『変換して増幅する』という効率を上げることができれば、再生可能エネルギーをもっと普及させることにもつながるはずです」

これを実現するために重要なのは、多様な燃料から高効率な発電をすることができる触媒の開発だ。物質がどのように反応し、その反応がどのように進むか、無数の組み合わせを試して最適な方法を導かねばならない。再生可能エネルギーの活用が重要視されるようになったのは近年のことで、まだ始まったばかりの新しい研究だが、その成果には大きな期待がかかっている。

「『化学』の二字は、『化楽』と書いてもいいのではと私は思っています。その研究には、物質が化けることを楽しむ心が必要だということですね」

予想を立てて、その通りのことが起これば、予想が正しかったことが実証されるわけだが、それだけでは面白くない。ときに、思いもかけないことが起こり、「なぜこんなことが起こったのか?」と考えることで大発見につながる。そんなダイナミックな出来事がまれに起こることがあるという。

「私が京都大学で、銅触媒を使ったジメチルエーテルの研究をしていたときのことです。反応をよくするために試行錯誤するうち、ふいに銅を焼いてみることを思いつきました。実は銅というのは熱に弱いので、触媒のことを少しでも知っている人なら誰も焼くなんてことはしないものなのです。ところがその結果、驚くほどの成果が得られたんです。興奮しましたね」

そんな菊地准教授が、日ごろから学生にアドバイスしていることがある。それは、研究には終わりがなく、そこで導き出した結果が多くの分野に応用されるのだということ。

「高効率で安定した燃料電池は多くの場面で需要が広がっています。エネルギー問題は、特に日本においては東日本大震災以降、より重要な課題となっていて、研究者の日々の努力が実社会に直接結びついているものです。そこに化学システム工学の面白さと手応えがあると思うんですよ」

〝「化楽」の精神で次世代燃料電池を開発する

化学物質の無数の組み合わせを試す

触媒に使用する物質と、その組み合わせは無数にある。その反応の仮説を立てて、それを実証するには根気が求められるが、わくわくする作業でもある。化学物質の扱いは、乳鉢と乳棒を使って手作業で行うことも。

実験装置はゼロから自作する場合も

高温型の燃料電池の実験は、装置の温度を1000°Cにして行うが、そこまでの温度にするのに5時間をかけるという。実験装置は、既存のものを使うこともあるが、さまざまな部品を組み立てて自作することもある。

修士課程では全員が実験装置を製作

これは、メタノールを燃料とする燃料電池の実験装置。修士課程の授業では受講する生徒たちすべてが製作し、発電性能を競うのだとか。化学の知識だけでなく、機械の技術も必要。

この小さな金属片で触媒反応が

1センチに満たない金属片だが、この小さな場所で触媒作用が起こる。物質がどのような反応をしているか、観察しながらデータをとる。実験の中には数週間の長期間におよぶものもあるという。

研究室学生インタビュー

化学の力を使って世の中に貢献できる。そんなロマンがここにはあります

Oyama・菊地研究室 多田昌平さん Shohei Tada 工学系研究科 化学システム工学専攻 博士課程3年

意外にも、もともと化学は得意分野ではなかったという多田さん。それでも化学システム工学の道を選んだのは、エネルギーを生み出す研究に携わりたかったからだとか。

エネルギーに興味を持ったのは、どうしてですか?

直接のきっかけは受験勉強です。数学や物理のように基礎力が身につけば、あとは自分の頭で応用できる科目と違って、化学はたくさんの化学式を記憶しなければならず、「暗記もの」という苦手意識を持っていたんです。ところが、模擬試験のための勉強をしているとき、再生可能エネルギーなど次世代のエネルギー開発についての問題が出題されていて、それについて学ぶうち、少しずつ考えが変わってきました。化学というのは、ただ単に暗記するものではなく、それを生かして世の中をよりよい方向に導くことができるものだということに気づいたんです。

菊地先生からは、どんなことを指導されますか?

データを客観的に見ることの大切さですね。データには嘘がなくて、それが予想に反した結果だとしても、「なぜそうなったのか?」を考えることで、そのデータを次に生かすことができる。僕はメタンから水素を取り出す研究に携わってきましたが、修士課程のころは思うような成果が出ず、少し落ち込んでいたんです。でも、「(この研究を)面白いと思ってくれる人はきっと多くいるはずだから、あきらめないで続けるべきだよ」という菊地先言葉が励みになりました。そのおかげで、博士課程の3年目にヨーロッパの触媒学会で成果を発表することができました。200人のうち、40人しか選ばれないPhD Student awardsを受賞できたときは、本当にうれしかったですね。

博士課程修了後は、どんな進路を考えていますか?

ʼ14年から、スイス連邦工科大学に留学することが決まっています。日本にいながらにして世界の舞台に立てることを菊地先生は教えてくれましたが、同時に自ら海外に行って、総合的な知識を養いたいと思わせるきっかけも与えてくれたんです。この留学を価値あるものにして、菊地先生に恩返しをしたいと思います。

化学実験といっても
工作する時間も多い

思い通りの実験をするためには、パイプを切ったり、鋼板を曲げたり、装置を自作することが多く、工作する時間が多いのは意外でした。ものづくりは好きなので楽しいですけどね。

学会で賞を受賞。
うれしかった

菊地先生には、学会に出席するチャンスを多くいただき、とてもいい経験を積ませてもらいました。留学することが決まったのも、学会に出席したことがきっかけです。

スポーツ好きな
メンバーが多数

研究室のメンバーは、スポーツ好きが多いです。卓球やバレーのキャプテン経験者もいるし、体操選手で「得意技は鉄棒の大車輪です」なんて人もいるんですよ。

高校時代から
サッカー選手でした

サッカーは高校から続けていました。動きを理論的に考えるのも好きで、秋田豊さんの『センターバック専門講座』という本を読んだんですが、とても面白かったですね。

弓道サークルでは
代表をつとめました

弓道は、大学入学時に友達に誘われて始めたのがきっかけで、代表を務めるほど一生懸命でした。うまくなるには、自分との対話が必要で、研究に似ているなと思いました。

メンバーとは
密に交流しています

この夏は、有志が4~5人集まって週に1度、10キロのランニングをしていました。2ヵ月に1度は飲み会もあって、先生との距離が近いのも、この研究室の魅力だと思います。

科学システム工学科

現在私たちは、豊かな生活と引き換えに、環境問題等の課題と向き合わざるをえなくなっている。環境問題のような複雑な課題に取り組むとき、対象を要素から構成されるシステムとしてとらえアプローチする化学システム工学は、大きな力を発揮する。化学システム工学科では、現実の課題に対して、化学を基盤にシステム的な思考で考察することにより、課題解決へのビジョンを示し、リアルタイムの社会貢献を可能にしている。