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石渡晋太郎 准教授 | 工学系研究科 物理工学科

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Profile
工学系研究科 物理工学専攻 博士(理学)
1998年、京都大学理学部卒。2003年、同大大学院研究科化学専攻博士後期課程修了。その後、研究員として早稲田大学、プリンストン大学、理化学研究所などを経て、2010年より東京大学へ。専門は超高圧などの極限環境を利用した新規機能性電子材料の開発。「予想を裏切るような意外性に満ちた新物質に魅力を感じます」

極限環境でつくる新物質に大きな可能性

面白い物性を示す組み合わせを探求する。

面白い物性を示す組み合わせを探求する。

電気的な刺激で、磁性が変化する磁石、廃熱を効率的に電気エネルギーに変換する半金属、超高速・超省エネルギーデバイスを可能にする半金属――。石渡晋太郎准教授とその研究室は、技術革新をもたらす可能性を秘めた風変わりな無機物質を追い求めている。ただし、役に立つ可能性のある無機物質を頭の中で設計し、それを狙って合成することは簡単ではないという。

「そこが有機化合物との違いだと思います。我々が扱う無機化合物は、構成元素の組み合わせが決まると、通常の合成方法では熱力学的に最も安定な相しか得られないことがほとんどです。この制約を打開して物質設計の幅を広げるために、我々の研究室では、超高圧合成や電気化学といった手法を採用しています。それでもどういうものが安定化されるかは自然のみが知るところでもあるんですが、さまざまな合成ルートを確保することで、頭の中でデザインした物質へとたどり着くチャンスが広がるわけです」

特殊な環境を使うことにより、目的の物質を得られる可能性が飛躍的に向上し、石渡研究室は新規物質を数多くつくり出すことに成功している。例えば大気中で合成すると絶縁体になってしまうある種の鉄酸化物に、数万気圧という超高圧下でさらに酸素を無理やり押しこむと、銀色に輝く金属に変化することがわかった。

「鉄の酸化物としては赤いサビや簡単に入手できる磁石が一般的ですが、この新物質は金属光沢を持ち、冷やすとスピンの向きがらせん状、もしくは渦を巻く奇妙な磁石になることが明らかになりました。スピンの渦は電気的に制御できる可能性があるので、省エネルギーなエレクトロニクスデバイスにつながるスピントロニクス材料としての応用が期待されています」

同じくエネルギー問題解決の一助になると期待される熱電変換材料に関しては、超高真空の環境を利用する。この状況でつくられた銀、銅、セレンの多層構造を持つ化合物は、この分野のチャンピオン物質として広く知られているビスマスとテルルの化合物より、低温では優れた変換効率を示すことが明らかになった。今後はこのノウハウを利用して、より室温に近い状況で変換効率の高い物質の開発を目指す。

「熱を電気エネルギーに変換する技術っていうのは、今の原子力発電、火力発電もそうです。でも、あれは熱で蒸気をつくってタービンを回す、という力学的なエネルギー変換が間にあって、それから電気へというステップがあるからどうしてもシステム全体が大きくなる。一方、熱電変換材料は、物質自体が熱エネルギーを直接的に電気エネルギーに変換する。電子構造が維持されていさえすれば原理的にはいくらでも小さくできるので、例えば体温で動作する超小型電子デバイスなどへの応用は近い将来に実現するはずです。エネルギー問題全体を解決するというレベルには遠いんですけど、デバイスの小型化、つまりはエネルギーをスマートに使うような社会には貢献できると思っています」

ひとりひとりの個性が新発見につながる

新物質開発は論理だけの世界ではない。研究者の個性が問われるダイナミックな場だ。

新物質開発は論理だけの世界ではない。研究者の個性が問われるダイナミックな場だ。

自然界にないものを自分でつくり、いままでに誰も見たことのない現象を世界で最初に見る。それは星を発見したり、新しい素粒子を見つけるのと近い感覚のはず、と石渡准教授は言う。それに加えてこの物性物理の研究には、実現すれば産業構造を劇的に変えることになる室温超伝導に代表されるように、たまたまできたものが社会に大きな影響を及ぼすかもしれないという醍醐味もある。

「工学部なので最終的な目標は電子デバイスへの応用にあるんですが、物理工学科は、工学部の中でおそらく最も基礎的な研究を行っているところ。応用につながる新しい原理を見つける、その最初の部分を担う学科です。さらに言うと、『工学と理学』『物理と化学』といった枠組みに囚われることなく自由な発想に基づいた研究を行うことが許された数少ない学科だと思います。私はこのような研究環境から将来の技術革新につながる大発見が生まれるものと信じています」

では、この研究にはどんな人材が向いているのだろうか。

「我々が行っている研究は基本的に2段階に分けることができます。第1段階は物質を合成して風変わりな性質を見つけることで、第2段階は風変わりな性質の起源を解明しそれらを実用化するための筋道を見つけることです。ここで気をつけなければいけないのは、後者はこれまでの固体物理の知見に基づいてロジカルに研究を進めることができますが、前者は必ずしもロジカルな戦略が功を奏さないという点です。だから研究者自身の知識とか経験、ひらめきが重要になる。これが物質開拓の難しいところでもあり、面白いところでもあります。そして、この第1段階では学生それぞれの個性が如実に現れます」

つまり、求められるのは多様性。「いろいろな個性を持った学生を歓迎します」と石渡准教授は未来の研究者にエールを送る。

構造を制御し、新しい物性を目指す

高圧で酸素を押しこみ新たな磁石を生み出す

本文中に紹介した、鉄の酸化物(ペロブスカイト構造という結晶構造をもつ)にさらに酸素を押し込み、銀色の金属に変化させたところ。ペロブスカイト構造は、磁性や構造を制御することが可能で、微妙な物性をつくることができる。

スピントロニクスで省エネデバイスに道

右のようにしてつくられた3元系の鉄の酸化物(SrFeO3)は一般的な磁石とは違い、スピンが渦を巻く風変わりな磁性を示す。このスピンを制御することでエネルギーの消費の少ないエレクトロデバイスにつながる可能性がある。

多層の格子構造を持つ化合物で熱電変換を達成

熱電変換材料は、電気は流しても熱は流さないというのが設計のポイントになる。これを解決するために石渡研究室が開発したセレン、銀、銅の化合物は、電気を流す層と熱の流れをブロックする層を交互に積層させている。

実用を最終目標に室温で動く物質を探す

石渡研究室が目指しているのはより実用に近い、室温で動作する物性をもった物質の開発。そのために、ヘリウムの液化する温度から室温を超える温度までのスケールで新しい状態を示す物質を探している。

研究室学生インタビュー

自分でつくりだした初めての超伝導に感動。将来も研究を続けます

石渡研究室 上谷 学さん Manabu Kamitani 東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻  修士課程1年

博士課程で学んでいる石渡研の上谷学さんは、今、超伝導を研究している。

超伝導に興味をもったきっかけは?石渡研を選んだのはなぜ?

最初に超伝導を知ったのは、ドキュメンタリー番組でアメリカの論文ねつ造事件を見てからなんです。怖い話だと思いましたが、同時にねつ造するくらい面白いテーマなんだなと思いました。それまで習ってきた電気抵抗がゼロになるという世界がとにかく不思議で、もっと知りたいと興味を持ちました。大学に入って研究室訪問したときはまだ石渡先生は十倉好紀先生の研究室にいらっしゃったんですが、高い圧力を使って超伝導とかの新しい物質を狙うというやり方に魅力を感じて、さらに新しい研究室も立ち上がるというのでその面の面白さもあるかなと思ってこちらを選びました。あと、十倉先生が「こういう研究って料理みたいなものだから、料理好きな人は向いていますよ」と言われたのも効きましたね。冗談だったとは思うんですけど、僕、料理好きなもので本気にしてしまったんです(笑)。

この研究の魅力は?どういうときにそれを感じますか?

見つかるまではたいへんなんですけど、自分がコツコツつくったサンプルを実際に測ってゼロ抵抗になった瞬間というのはなにものにも代えがたいんです。初めて見つけたのは修士1年の冬で、まだ1回しかないんですけど、本当に感動しました。もちろん授業でも超伝導の勉強とかはある程度するんですけど、理論しか知らなかったんで、実際に電気抵抗がゼロになるっていうのは感動モノでしたよ。ウチの研究室は基礎研究なんですけど、そこから一気に応用に結びつくところまでいくかもしれない。そこがこの研究の魅力だと思っています。

研究面での夢はなんですか。将来はどんな道に?

室温超伝導はもちろん大きな夢なんですけど、現実的には転移温度と結晶構造の関係が見えたらだいぶ研究が進むはず。超伝導の転移温度をどう制御していくかっていうのが経験則として導けたら素晴らしいことなので、ぜひ、それをやりたい。この研究が好きですし、このままアカデミックの道を進みたいと思います。

新しい研究室ですが
活気にあふれています

秋の銀杏並木を背景にした’12年度のメンバーの集合写真です。石渡研は新しい研究室で私はその1期生です。最近では学生も増えて、活気が出てきてうれしい限り。

研究も体力が資本。
体づくりも怠りません

学部生時代はサークルでアメフトをやっていました。今でも、研究の合間を縫って体力が落ちないように筋力トレーニングを欠かさずやっています。プロテインも愛飲中。

サンプルはどんな物性?
電気抵抗測定の準備中

サンプルの電気抵抗測定のために配線をいじっているところです。測定によって、サンプルが超伝導体かどうかなどを確かめます。物性を議論する上で重要な測定です。

こちらはX線測定器。
新物質は誕生した?

粉末X線測定装置。サンプルがきちんと作製できているかどうか、これまでにない新物質ができているかどうかをこの装置で確かめます。付属ソフトで結晶構造解析も可能。

研究の合間のひと息。
十倉研とのテニス合宿

石渡研究室のメンバーは毎年、同じ学科の十倉研究室のテニス合宿に参加しています。研究から一息ついて、テニスを満喫。テニス合宿は和気あいあいとした雰囲気です。

十倉研のパーティーにも。
一緒にご飯も多いです

十倉研が夏学期の終わりに開催しているビアパーティーの様子です。こちらにも石渡研は毎年参加しています。写真は十倉研の学生と。一緒にご飯に行くことも多いです。

物理工学科

理論はわかっていたが、実験は不可能と思われていた量子テレポーテーション......。この実験に世界で初めて成功したのが、物理工学科の研究室だ。理論物理学と実験物理学の双方を研究し、量子情報科学のような最新物理学の分野では世界トップクラス。物性物理の研究が盛んなのも特徴だ。この学科では毎日、最先端の物理が生まれている。物理の基礎を自由な発想で応用し、新しい学問と産業を生み出す一大拠点となっているのだ。