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竹谷純一 教授 | 工学系研究科 応用化学科

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Profile
新領域創成科学研究科 物質系専攻 博士(理学)
1991年、東京大学理学研究科物理学専攻修士課程修了後、財団法人電力中央研究所主任研究員。2001年、東京大学理学研究科物理学専攻より博士号(理学)を取得。スイス連邦工科大学客員研究員、理化学研究所客員研究員、東北大学金属材料研究所客員助教授、大阪大学産業科学研究所教授などを経てʼ13 年より現職。

物理と化学から、有機エレクトロニクスの近未来技術を開発

工学的なアプローチでは精密な作業も行われる。

工学的なアプローチでは精密な作業も行われる。

パソコン、スマートフォン、テレビ......。私たちの身の回りにあふれるエレクトロニクス製品は、どれも硬くて重量感がある。しかし、竹谷純一教授は、有機物を材料にして、薄くて軽くて柔らかい、これまでにないデバイスの研究開発に取り組んでいる。

「今、エレクトロニクス製品は、机の上に置いたり、手でもったりして、人がそれを操作する、つまり〝人に属する〟ものですが、これからの社会では、いろいろな形の〝モノに付属する〟ことが望まれます。そのような製品をつくるには、硬い形状ではなく、柔らかいものである必要があります」

エレクトロニクスの技術では、電気を通しやすい導体と電気を通さない絶縁体の中間の性質をもつ「半導体」と呼ばれる物質が欠かせない。半導体を利用して、電気の流れでオンとオフを切り替え、情報を制御する。今、半導体の材料にはシリコン(Si)が多く使われている。それに対して、竹谷教授が扱っている有機物は、炭素を骨格とした複雑な化合物で、私たちの体を構成するような柔らかい物質だ。

「2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹博士の業績は、電気を通すプラスチックを発見したことです。有機物であるプラスチックが電気を通すのかと、私も最初は驚きました。なぜ柔らかいもので電気が流れるのか。それに興味をもったのが、この研究を始めたきっかけです」

電気伝導率の高い有機物をつくりだす

竹谷研究室の研究の特徴は、物理、化学、工学の3つのグループが連携している点だ。物理の研究では、「柔らかい物質で、なぜ電気が速く流れるのか」を調べている。

金属では、原子や分子の間で電気の流れる道筋ができており、そこを波のように連続して電子が移動するため、速い伝導が可能となる。これを〝バンド伝導〞という。一方、有機物の場合、従来は、分子と分子の間を飛び跳ねるように伝わる〝ホッピング伝導〞という移動のしかたをするため、電流の速さには限度があり、コンピュータの半導体材料には向かないと考えられていた。「ですが、調べていくと、有機物の中にもバンド伝導をするものがあって、すごく速い伝導が可能であることがわかってきました。これならコンピュータをつくることができます。しかも幸運なことに、私たちが見つけた有機物の中には、我々が普通に暮らしているような環境でバンド伝導を行うものがありました。物質の伝導は、温度や気圧に左右され、例えば、高温高気圧の環境下でしかバンド伝導にならないものがあります。そういうことは科学技術の力ではどうにも変えられないので、普通の環境下でバンド伝導をする有機物が見つかったことは、神様のギフトだと思っています」

どうすれば速いバンド伝導が可能になるかを明らかにし、「こういう分子がいいのでは」というところまで来たら、今度は、化学のチームが実際に分子を設計して合成する。そうして、現実には存在しなかった電気伝導率の高い有機物を実現するのだ。

「有機合成化学の優れた能力をもった専門家がうちの研究室にいます。低コストでつくれるような方法で、実現してくれました」

そして選びに選んで、ついに実用材料となる有機物DNBDT(ジナフトベンゾジチオフェン)をつくりだした。

性能を高めて産業応用へ

教授と学生のコミュニケーションはまるで友達同士のよう。

教授と学生のコミュニケーションはまるで友達同士のよう。

次に、工学的なアプローチによって、有機材料を半導体の形にしていく。驚くことに、その工程は、「塗って乾かすだけ」。有機材料となる分子をプラスチックなどの基板の上に塗って乾かすことで、結晶化させるのだ。「このとき、分子がバラバラに勝手な方向を向いていると、どんないい分子を使っても、高い伝導率は実現できません。分子が均一に、同じ周期で繰り返し並ぶように工夫すると、従来の半導体と比べて、格段に高い性能が望めることがわかってきました。しかもそれは、何倍というレベルではなく、1桁や2桁も高い性能が期待できます」

結晶化の工程は、プリンターを使った印刷によって、短時間で低コストに行うことができる。ある条件で印刷すると、分子が非常に高い精度で整然と並んでいく。分子がもつ自然の力を利用して分子を並べるわけだ。フレキシブルデバイスとも呼ばれる、柔らかいデバイスの応用にもつながる。

「自分で形をつくって組織化するという能力が、分子の中に備わっているのを目の当たりにすると、サイエンスの面白さに改めてワクワクしますね」

竹谷教授はすでに、従来のテレビに比べて8倍速駆動が可能な液晶ディスプレイの製作に成功している。

「塗って乾かすだけという点は、大がかりな設備投資がいらず、産業界から注目されていますが、実際に企業に「一緒にやりましょう』と言ってもらうには、従来より10倍以上の性能を示さないと難しいのです。そこを超えるのが大変ですね。とはいえ、自分たちの研究が、近未来の社会を支える技術になる可能性があるのは、研究をしている上で大きな醍醐味です」

〝物理学、化学、工学の連携でフレキシブルデバイスを実現!

身につけることができるフレキシブルな有機半導体

有機物を材料としているため、柔らかい基板に塗ったり印刷したりすることで、フレキシブルな半導体が実現できる。こうした有機半導体が実用化されれば、あらゆる端末が「携帯する」から「身につける」に変わる。

半導体の有機材料として開発したDNBDT(ジナフトベンゾジチオフェン)

物理チームの研究成果をもとに、有機合成化学のチームが、高い電気伝導率をもつ有機物を分子から設計し合成する。最終的に実用材料として選んだのは、DNBDTという物質。これが半導体の材料となる。

DNBDTを用いてつくった液晶ディスプレイ

竹谷教授らは、開発した有機半導体を用いて、従来に比べて8倍の高解像度で高速表示が可能な液晶ディスプレイの開発に成功した。世界最高性能であり、また、塗布や印刷という簡便な製造方法にも注目が集まっている。

有機単結晶ウエハーを単結晶成長装置でつくる

有機物を基板に塗るときは、プリンターを使う場合もあれば、単結晶成長装置を使うこともある。単結晶成長装置で基板の上に有機物を塗って乾かしたものが、有機単結晶ウエハー。柔らかい基板の上に塗れば、柔らかいウエハーができる。

研究室学生インタビュー

さまざまなバックグラウンドや世代の人たちが集まるので、刺激を受けながら研究できます

竹谷研究室 添田淳史さん Junshi Soeda 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻 博士課程2年

2013年4月、竹谷教授とともに大阪大学から東京大学に移った添田さんは、有機分子を基板の上に整列させるための研究をしている。

竹谷研究室はどんな研究室ですか?

この研究室の強みは、何と言っても化学や物理、工学など、いろいろな分野の人が集まっていることです。東大に来てからは、阪大時代のメンバーのほかに、新たに何人かのメンバーが加わったので、また違った刺激を受けています。特に、新しく入ってきた学部生たちはバックグラウンドがさまざまでとても新鮮です。

どんな研究をしているのですか?

有機物の結晶をつくるための新しい手法を開発しています。有機物の結晶化は、基本的には塩の結晶をつくるのと同じです。塩を水に溶かして、皿に入れて置いておくと、水分が蒸発して塩の結晶ができますよね?

塩の場合は粒状の結晶ができますが、僕たちが扱っている有機物は、ある条件の下で結晶化を行うと、分子がきれいに並びます。どのような条件で結晶化を行うと、電気が流れやすくなるか、また、そのときの分子の並びはどうなっているかを調べて、より高い電気伝導率の結晶をつくることを目指しています。

竹谷先生は「ちょっと深く考える」というのをモットーにしていて、実験がうまくいってもうまくいかなくても、それで終わりではなく、「なぜそうなったのか」をちょっと考えることで差がつくとおっしゃっています。実験の結果の理由をちょっと深く考えることで、その後の研究が全然違ったものになることを、僕自身も実感してきました。

自分の研究が世の中の役に立つのは、やりがいがあるのでは?

そうですね。やりがいはありますが、実際に実用化までもっていくのは、すごく大変なんだなと肌で感じます。研究室で扱うだけなら、研究できればどんなものでも構いませんが、それを世の中で通用させるには、高い信頼性が必要で、それをクリアしなければ企業は注目してくれません。そういう社会の縮図を見られるのも、この研究室の魅力かもしれませんね。

本郷、駒場に次ぐ
第3のキャンパス

竹谷研究室は千葉県柏市の柏キャンパスにあります。2000年に建てられた比較的新しいキャンパスで、さまざまな先端的な研究が行われ、融合もしています。

毎年4月に行う
キックオフミーティング

研究室のフルメンバーがそろって、一年のスタートを切るキックオフミーティング。このときは、竹谷教授から「ピンチをチャンスに!」との訓示がありました。

半導体の実験は
クリーンルームで

半導体の実験では、ほこりは大敵。実験室に入るときは必ずウェアを着用し、エアシャワーを浴びます。感光材料も扱うため、紫外線の出ない黄色い蛍光灯が使われています。

学生部屋にいる
時間も長いです

もうひとつの”居間”が4階の竹谷教授の個室に隣接した学生部屋。実験結果をまとめたり、研究室のメンバーと雑談したり。窓を開けると、柏のさわやかな風が吹いてきます。

キャンパスの芝生で
バーベキュー大会

柏キャンパスは、緑豊かな広々とした敷地で、本郷キャンパスとはまた違った雰囲気。5 月のある昼下がり、芝生の広場でバーベキューをしてワイワイ。いい気分転換になります。

大学院試験壮行会
がんばって!

4月に入ってきた学部生が大学院試験に臨むにあたり、先輩たちが激励する会です。お酒の入った席では、普段できない相談なども気軽にできます。

応用化学科

応用化学科が目指すのは、物質をデザインすることで、人の役に立つ新機能を導き出すこと。無機、有機、バイオといった 従来分野を超えた最先端研究を推進している。そのためには、これまでに蓄積された知識を吸収する必要がある。技術・材料・デバイスを開発するには基礎的な研究の積み重ねも欠かせない。これらの成果の先に、エネルギー変換、貯蔵、環境浄化、 医療、情報処理などの分野での貢献がある。多岐に広がる知識の「技」の先に、豊かな「実」を結ぶことが究極の目標である。