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青木隆平 教授 | 工学系研究科 航空宇宙工学科

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Profile
工学系研究科 航空宇宙工学専攻 博士(工学)
東京大学工学部 航空学科卒業後、川崎重工業株式会社に入社。その後、東京大学大学院 工学系研究科航空学専門課程を経て、筑波大学構造工学系で助手、講師を務める。同大学に在籍しながら、ジョージア工科大学機械工学科で生体力学を学ぶ。1993年より東京大学工学部航空宇宙工学科、のちに工学系研究科航空宇宙工学専攻教授に。

ロケットや飛行機の設計を大きく変える革新的な構造を研究

研究室の3Dプリンターで試作したラティス構造の模型。

研究室の3Dプリンターで試作したラティス構造の模型。

青木隆平教授は東京大学航空宇宙工学科の前身である航空学科を卒業した後、筑波大学からジョージア工科大学へと渡り、バイオメカニクスの研究をしていた。航空工学と生体力学。この2つは接点がなさそうに見えるが、実は大きな類似点があるそうだ。

「人体もそうですが、自然の世界にあるものは本当に構造がうまくできているんです。例えば鳥の骨ひとつとっても、中はスカスカなのに、周りは殻で覆われている。軽さがあり、変形しにくい硬さもある。それに必要最低限のものだけで構成されているからムダがないんです。それはロケットや飛行機の構造を考えるうえでの哲学と一致しています。こうやって広い視野をもつと、航空宇宙工学はより一層面白いものに見えてくるはずです」

その青木教授が今、もっとも力を注いでいるもの。それが炭素繊維を樹脂で固めた炭素繊維複合材料の研究だ。素材自体がとても軽く、近年では最新鋭の旅客機ボーイング787に使用され、話題を集めた。従来のアルミニウム製の飛行機に比べて20%も燃費が改善されたという。

「しかも疲労しにくく、錆びないという特徴があるんです。そのため、メンテナンスコストも下げることができる。今や、飛行機開発はこの複合材料が主流になりつつあります」

こうした複合材料を用い、青木教授が目をつけたのが、先進グリッド構造だ。別名「網目構造」(ロケット分野においては「ラティス構造」)と呼ばれるこの新しい構造は、3方向に連続する梁だけを使っている。どの方向にも極めて強い構造としてはもっともシンプルなものだが、軽量や強度、さらに耐久性など、利点満載の優れものだ。

「これをロケットにも活用できないかと、現在JAXAと共同開発しています。もちろん、飛行機にも応用できます。これまでの飛行機はまず外側の部分をつくり、その後で内部に梁のようなものを通して補強していました。でもグリッド構造を使えば、それが逆になります。まずグリッド構造を用いて壊れにくい内部をしっかりとつくり、そこに外側をつけていく。内から外へと作業が進むことで、効率化も図れるのではないかと考えられています」

しかし、と青木教授はまだまだこの現状だけに満足しない。

「現在は、あくまでアルミニウムだった素材を複合材料に置き換えているにすぎません。もっと複合材料に適した機体のつくり方や形がきっとあるはずです。それを見つけなければブレイクスルーはあり得ないと考えます」

宇宙エレベーターの実現を視野に入れた研究も

学生と研究内容を議論する青木教授。ここを巣立った多くの学生が航空宇宙業界で活躍。

学生と研究内容を議論する青木教授。ここを巣立った多くの学生が航空宇宙業界で活躍。

この炭素繊維複合材料は、世界シェアの7割を日本製が占め、日本の生産技術が世界を圧倒している。この分野において日本は最先端を走っていると言っても過言ではない。

「ただ、残念なことにいちばん利用しているのは飛行機をつくっている他国ばかりなんですよね(笑)。とは言っても、これだけたくさんの素材が我々の近くで生み出されているわけですから、使わない手はない。そこで、日本が主導権を持って最終製品まで携われるものとして、ロケット開発など宇宙の分野に活かせないかと考えています」

その一つとも言えるのが「インフレータブル構造」だ。宇宙で何かしらの大きな構造物をつくりたいと考えたとき、ロケットの推進力や運べる荷物の重さには限界があるため、どうしても運ぶ回数を増やさざるを得なくなり、結果的に大きなコストがかかってしまう。それを回避するために、軽いものをたたんで持って行き、宇宙空間で広げてしまおうというのがインフレータブル構造の発想だ。すでに宇宙での実験が行われているインフレータブル伸展マスト(下の写真参照)では、縮んだマストを宇宙の中で伸ばすことで、より巨大な構造物を軽量・安価でつくることができ、宇宙開発にも拍車がかかるのではと期待がかかる。

「このマスト部分にも複合材料が利用されています。巻き尺のように巻くことができ、伸ばした際には半円形になるため、複数枚合わせれば筒形になります。この中に膜状のチューブを入れておいてこれを膨らませると、マストが伸びていく。風船のような形で膨らませていくため、モーターも必要ありません。今はまだそれほど大きなものではありませんが、いずれ実験スペースとして使えるほどのサイズになれば、いろんな場面で活用できそうです」

また青木研究室では、未来的に実現が嘱望されている宇宙エレベーターの研究も行っているという。まだ夢物語の段階ではあるものの、「原理的にはつくることが可能」と青木教授。「宇宙エレベーターのケーブル部を複合材料でつくった場合、どれぐらいの太さで強度が必要なのか。またどのような構造にすればいいかを、現実的な視点で考えています。乗り物も建物も、いちばん大切なのは土台となる構造。航空宇宙工学では、それを宇宙や空の世界で考えることができる。そこがもっとも楽しいところです。そしていつかは誰もが安全に宇宙に旅行できるようにする。それが今の目標です」

今やロケット・飛行機開発には欠かせない複合材料

今や飛行機の新機軸となりつつあるグリッド構造

現在、国内の企業と共同で開発を進めている炭素繊維複合材料を使ったグリッド構造。写真はロケットに用いられることを想定したもので、軽量化、耐久性、低コストなど、あらゆる面で次代の新素材として、注目を集めている。

さらなる開発が期待されるインフレータブル構造

巻き尺状に巻かれた複合材料製のマストは、その中に入った柔らかいチューブが膨らむことで、押し出されて伸びていく。写真ではそのマストの外に白い断熱材が貼られているためマスト本体は見えない。

翼の形状を可変させるモーフィング翼の研究

飛行機の離陸や巡航、着陸時など状況に応じてフラップの形状を変えることができるモーフィング翼。これにより効率性や安全性の向上が期待されている。この部分にも複合材料が使われ、青木研究室の研究対象となっている。

ときには自分で空を飛び航空工学に役立てることも

航空ライセンスを持つ青木教授は、ときには実際に自ら操縦桿を握り、飛行機に何が必要かを調べるという。「体験から得ることも大きいですから。とは言っても、基本的には趣味で飛んでいるところもありますけどね(笑)」。

研究室学生インタビュー

最先端の技術を学んで子供のころからの夢だったロケット開発を実現したい

青木研究室 田中宏明さん Hiroaki Tanaka 東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 修士課程2年

卒業後、国内で飛行機やロケットを開発する企業への就職が決まっている田中さんに、青木研究室の魅力を語ってもらいました。

航空宇宙工学を選んだ理由は?

出身が鹿児島県なんです。近くに種子島があり、小学生低学年のときに実際にロケットが打ち上がるのを体感したんです。その後も何度か見る機会があり、いつか自分もロケット開発に携わる仕事がしたいと思うようになりました。考えてみれば、そのころからブレることなく、宇宙一筋ですね(笑)。

航空宇宙学科のいいところは?

学べる分野が幅広いところです。構造・材料力学や流体力学、それに制御、推進などさまざまで、視野を広くもつことができます。もちろん研究室では専門的なことを学ぶようになりますが、たくさんの選択要素から選べるというのは大きな長所だと思いますね。

田中さんの研究内容を教えてください。

炭素繊維複合材料の研究をしています。この複合材料は製造方法が金属とは違って複雑なため、どうしても初期欠陥が出てしまいます。この板(下の写真)にも表面にうねりが出ているのがわかると思いますが、このまま飛行機やロケットに使用してしまうと、強度などが落ちてしまう可能性がある。それが実際にどれほどの悪影響を及ぼすのかということを解析しています。

青木研究室を選んだ理由とオススメのポイントは?

宇宙やロケットについて調べていくうちに、こんな大きなものが宇宙まで行くためには、一体どんな構造になっているんだろうと興味をもったのが最初でした。もともとものづくり自体が大好きでしたし、製造物の土台となるのはやはり構造です。その基礎をしっかりと学びたいと思い、この研究室を選びました。

青木研究室は企業と研究者の連携を深める活動にも力を入れており、企業との共同研究を行う機会が増えています。そこはすごくよかった点ですね。最先端の分野に携われたり、貴重な試験機を使えるというのは、本当にいい経験になります。

炭素繊維複合材料の強度を
数値解析を用いて予測

目の錯覚ででこぼこに見えるが、実は表面にうねりが発生している。このうねりが及ぼす悪影響の度合いを解析することで、初期欠陥(ここではうねり)まで考慮に入れた材料強度を予測することができる。

複合材料の疲労度を
最新の加圧器で実験

田中さんが使っているのは地下の実験室にある最新式の加圧器。これで複合材料の疲労度を試験している。リニアモーター式なので、ほとんど音が出ず、とっても静か。

マイナス15°Cの環境で
プラスチックを冷却

大型の冷凍庫で冷やしているのは複合材のもとになる材料。炭素繊維の束にプラスチックを染み込ませてシート状にしたものだが、温度が高いとプラスチックが反応し固まってしまうため、常にマイナス15°Cで冷やしておく必要がある。

実際の機体の外板を使い
新たな研究開発に応用

ボーイング777の胴体の一部。外板構造のしくみを調べながら、高強度や軽量化、低コスト化を目指す炭素繊維複合材料やラティス構造の研究に役立てている。

院生同士はノリがよく
いつも和気あいあい

「先輩後輩関係なしに何でも気軽に話し合える雰囲気がこの研究室のいいところですね」と田中さん。青木先生がお酒好きなこともあり、よくみんなで飲み会も。「おかけでお酒の席のマナーを学べました(笑)」

青木教授を中心に
みんなで旅行へ

年に一度は必ず出かける研究室旅行。「今年は日光に行きました」と田中さん。「このときばかりは、普段の研究を忘れて、みんなでただただ遊んで交流を深めています!」

航空宇宙工学科

日本の航空・宇宙産業を担う人材を輩出させ、理系の学生にもっとも人気のある学科のひとつ。航空機やロケット、人工衛星などの 宇宙機の機体について学ぶ航空宇宙システムコースと、推進機(エンジン)を学ぶ航空宇宙推進コースの2つがある。航空宇宙工学科では流体、構造・材料、飛行・制御、推進など、さまざまな工学分野のバランスの取れた〝統合〞が要求される。研究者や技術者には最先端技術を理解できる知性だけでなく、異分野の知見を統合し、新しい価値を創り出す能力が求められる。